日本救急医療財団が救急救命処置の公募の結果を公表したことは別の記事で紹介しましたが、応募に対して提案のあった処置についての日本救急医療財団での検討結果が公表されました。

公募には、既存の処置の見直しとして3提案、新しい処置の提案として12提案、合計15の提案がされていました。

さてさて、どのような結果であったでしょう。それぞれみていきます。

特定行為の実施の際には、現場から医師に連絡して処置実施の許可を得る必要がある。

①既存の処置の見直し(計3提案)

三つの提案は何も特定行為の指示要件の見直しについて提案です。3つの提案は、重なりがあり、まとめると、特定行為の乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液、エピネフリンの投与、食道閉鎖式エアウェイラリンゲアルマスクによる気道確保の3つの処置の包括化してはどうか?というものです。

いずれも心肺停止を対象としたものですが、気管挿管は対象になっていません。近年許可された心肺停止前の処置についても対象となっていません。気管挿管は食道挿管などのリスクがありやはりまだ特定行為としての位置付けがふさわしいということなのでしょうか。心肺停止前の処置についてはまだ許可されてからの歴史が浅く、まだこのままが よいのでしょう。

本年度の結果は、審議中で結論が出ていない(未了)として、次年度引き続き検討するようです。現状での救命士の活動に大きく影響するため、この行方は目が話せませんね。

②新しい処置の提案(計12提案)

多様な提案がなされていますが、その中で、方向性がはっきり示されたものは1つです。残りは、審議中で結論が出ていない(未了)か、評価の対象外(差戻し)として振り分けられています。

・方向性がはっきりと示されたもの(1つ)

 「静脈路確保困難事例に対する骨内医薬品注入キットによる骨髄輸液路の確保」は、カテゴリーⅢ( 救急救命処置として追加することが現時点では適切ではないと判断されたもの)に分類されました。骨髄輸液路の確保は、以前から救急救命処置に加えてはどうかという議論があった中で、今回、「骨内医薬品注入キット」を使用した提案がなされたわけですが、何と!国内で唯一販売されていた「骨内医薬品注入キット」がすでに販売中止になっています。国内で入手困難な器具を前提とした提案では、救急救命処置に加える判断は難しいのでしょうね。

・未了(5つ)

 アナフィラキシーに対するアドレナリンの投与、外傷による出血性ショックに対するトラネキサム酸の静脈内投与などの5つが審議中で結論が出ていない(未了)となっています。

 アナフィラキシーに対する アドレナリンの投与が2つ提案されており、いずれも未了となっています。アドレナリンの投与方法の違いで、2つの提案となっており、一つはエピペンを使った投与方法で、もう一つは、アドレナリン注射液の使用(筋注?、静脈投与?なのかは明らかにされていない) となっています。

 救急救命士には、エピペンを処方された傷病者が何らかの理由で自らエピペンの使用ができない場合に本人に代わって救急救命士がエピペンを使用するというのは現在でも認められています。今回の提案は、エピペンを処方されていない傷病者に対しても救急救命士がいずれかの方法でアドレナリンの投与ができないかという提案のようです。 食物アレルギーを中心にアナフィラキシーのリスクのある患者さんが増えている状況で、この処置に対する救急救命士への期待は高いようです。議論の行方が気になります。

トラネキサム酸の静脈投与製剤の外観

 外傷による出血性ショックに対するトラネキサム酸の投与は、救急医療機関では多くの施設で当たり前のように既に行われています。 トラネキサム酸は、 静脈内投与を行う止血剤の一つで、「トランサミン」という製品名のものがよく知られています。薬自体も高価なものではなく、外傷によるショックの患者に静脈路を確保したのであれば、ボトルにトランサミンを1筒いれてはどうかといった提案かと思います。病院前での投与にどれぐらいのエビデンスがあるのかが鍵になるかと思いますがどうなるんでしょうね。

差戻し(6つ)

 「痙攣に対するジアゼパム座薬の使用」、「電気ショック抵抗性の心室細動とのに対するアミオダロン塩酸塩製剤の静脈内投与」などの6つの提案が差戻し(評価の対象外)としています。

・痙攣に対するジアゼパム座薬の使用 → 差戻し(評価せず)

 小児のけいれんなどに対してダイアップ座薬を投与してはどうかという提案のようですが、必要な情報やそれを裏付ける資料は十分に示されていないということで評価対象外となっています。確かにホームページ上で公開されている提案書を見てみるとなかなかこの内容では評価しづらいなと感じます。

・電気ショック抵抗性の心室細動等に対するアミオダロン塩酸塩製剤の静脈内投与 → 差戻し(評価せず)

  電気ショックを何としても除細動できないVFに対する抗不整脈剤であるアミオダロンを投与してはどうかという提案ですが、これも必要な情報やそれを裏付ける資料が十分に示されていないということで評価対象外となっています。

・急性冠症候群に対するニトログリセリン製剤の口腔内投与 → 差戻し(評価せず)

心筋梗塞などが疑われた場合にはニトロールスプレーなどの硝酸薬を使用してはどうかという提案です。これも上記と同じ理由で対象外となっています。

ただ、硝酸薬に限らず、医師が患者に対して、このような症状が出た時にはこの薬を使いなさいと言って処方している薬については、そのような症状が出た時に救急救命士が代わりに使ってあげるというのは今後の目指す方向性の一つなのかもしれません。

救急救命処置の範囲の拡大や見直しは、現場の救急救命士の活動に大きく影響するだけではなく、一緒に活動する救急隊員や、傷病者を受け入れる医療機関の医師の診療手順にも影響を与えるものです。もちろん救急救命士になるための教育や国家試験の内容にも影響を与えます。このサイトでも、引き続きフォローしていきたいと思います。

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事