ILCOR(国際蘇生連絡委員会)からCOVID-19に対する蘇生に関するCoSTR(ステートメント)のドラフトが発表されていましたが、この度、日本蘇生協議会(JRC)からCoSTRの日本語訳と、CoSTRを踏まえた日本蘇生協議会としての見解(PDFの最後の方)が発表されました。

ちょっと詳しくみてみましょう。

1.CPRとエアロゾル

ILCOR:胸骨圧迫と CPR はエアロゾルを発生させる可能性があると考える(弱い推奨、エビデンスの確実性;非常に低い)。

<JRC の見解> 同様の見解である。

<わが国への適用> 胸骨圧迫のみの場合も含め CPR はエアロゾルを発生させる可能性があることには、わが国においても留意する必要がある。

JRC 日本蘇生協議会 「心停止傷病者から救助者への COVID-19 感染リスク」

胸骨圧迫だけも含めて、CPRはエアロゾルを発生させる可能性があるということです。確かに胸骨圧迫や人工呼吸で、傷病者の口から泡を吹くような感じなることがありますので、エアロゾルの発生の原因になりそうですよね。

ただ、エビデンスの確実性は”非常に低い”となっていますから、確実とは言えない感じですね。エアロゾルの定義についても、触れられていません。エアロゾルって 「WHOは、飛沫も飛沫核もエアロゾルと認識しているようです」が、定義が今ひとつはっきりしないまま議論されている感じがします。

2.市民救助者による成人へのバイスタンダーCPR

② ILCOR:現在の COVID-19 パンデミックの状況では、市民救助者は胸骨圧迫のみの CPR と AED による電気ショックを考慮することを提案する(望ましい医療行為)。

<JRC の見解> JRC 2015 では、胸骨圧迫については、心停止傷病者全てに胸骨圧迫を施行することを推奨していた(強い推奨、非常に低いエビデンス)。また、人工呼 吸の訓練を受けており、それを行う意思がある救助者は、全ての成人心停止傷病者に対して胸骨圧迫と人工呼吸を実施することを提案していた(弱い推奨、 非常に低いエビデンス)。

 COVID-19 パンデミックの状況では、口対口人工呼吸は胸骨圧迫や電気ショックと比較して COVID-19 感染リスクが高いと考えら れるため、市民救助者(人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある救助者も含む)は、胸骨圧迫のみの CPR と AED による電気ショックを考慮 することを提案するのは妥当である。

<わが国への適用> COVID-19 パンデミックの状況では、市民救助者(人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある救助者も含む)は、成人の心停止に対して、胸骨圧迫のみの CPR と AED による電気ショックを検討することを提案する。

JRC 日本蘇生協議会 「心停止傷病者から救助者への COVID-19 感染リスク」

傷病者(成人)にCOVID-19の感染が疑われる状況では、感染リスクを考えると人工呼吸はやめましょうということですね。まあ妥当でしょう。

ただ、 「COVID-19 パンデミックの状況では」とはどういう状況なのか、どういう地域なのかは、わかりません。まだ感染者が報告されていない岩手県(4/17現在)では、当てはまらないでしょう。やはり地域と傷病者の状況によって決めるのでしょうね。

消防機関の口頭指導では、日々、状況を確認して、どこまで口頭指導するかを検討する必要があるのかもしれません。

3. 市民救助者による小児へバイスタンダーCPR

③ ILCOR:現在の COVID-19 パンデミックの状況では、人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある市民救助者が、小児に対して、胸骨圧迫に加えて、人工呼吸を実施してもよいと考える(望ましい医療行為)。

<JRC の見解> JRC 2015 では、院外及び院内における小児の心停止において、救助者は人工呼吸と胸骨圧迫を行うことを推奨し、救助者が人工呼吸を施行することがで きない場合は、小児の心停止においても少なくとも胸骨圧迫だけは行うべきであるとしてきた(強い推奨、低いエビデンス)。COVID-19 パンデミックの状 況では、口対口人工呼吸は胸骨圧迫や電気ショックと比較して COVID-19 感染リスクが高いと考えられるものの、日常的に小児の世話をする者が救助者と なり人工呼吸を含め実施する意思を有することが多いこと、呼吸原性心停止の小児の転帰が改善されることの方が重要であることから、現在の COVID-19 パンデミックの状況においても、人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある市民救助者は、小児に対しては、胸骨圧迫に加えて、人工呼吸を実施することを容認する提案は妥当である。

<わが国への適応> COVID-19 パンデミックの状況では、人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある市民救助者が、小児に対して、胸骨圧迫に加えて、人工呼吸を実施してもよいと考える(望ましい医療行為)。

JRC 日本蘇生協議会 「心停止傷病者から救助者への COVID-19 感染リスク」

小児に対しては、COVID-19の感染が疑われる状況では、感染リスクを考えても、人工呼吸はやってもよいでしょうということですね。ただし、「その訓練を受けていて、やっても良い人は」という条件で。これも妥当でしょう。子どもだと、 CPAだと何もしなければほぼ助からないことと比べれば、COVID-19への感染は、死亡率は高齢者や基礎疾患がなければ、容認できる人が多いでしょう。家族などは特にそうでしょう。

消防機関の口頭指導も、同じ考えでよいのではないでしょうか。

4.蘇生中のPPE

④ ILCOR:蘇生の際にはエアロゾルが発生するため、現在のCOVID-19 パンデミックの状況では、医療従事者は、PPE を使用すべきであることを提案す る(弱い推奨、エビデンスの確実性;非常に低い)。

<JRC の見解> 同様の見解である。

<わが国への適応> 胸骨圧迫のみの場合も含め CPR はエアロゾルを発生させる可能性があり、傷病者が COVID-19 の感染の可能性が疑われる場合には、医療従事者は、眼・ 鼻・口を覆う個人感染防護具(アイシールド付きサージカルマスク、あるいはサージカルマスクとゴーグル/アイシールド/フェイスガードの組み合わせ)、 キャップ、ガウン、手袋の装着に加え、N95 マスクの着用が必要である。

JRC 日本蘇生協議会 「心停止傷病者から救助者への COVID-19 感染リスク」

COVID-19の感染が疑われる状況では、N95マスクを含めたPPEが必要ですよという話ですね。これも妥当です。厚労省の資料からすると、「COVID-19の空気感染は起きていないと考えられている」ようですが、その可能性は否定できていない状況では、N95マスクが必要です。個人感染防護具の具体的な記載ぶりは、⽇本環境感染学会のガイドラインに記載を合わせています。

消防機関や救急医療機関で心肺停止の蘇生を担う人々に、十分な感染防護資器材が行き渡ることを願ってやみません。

5.電気ショックとPPEの着用

ILCOR: 医療従事者がエアロゾル発生に対する PPE を着用する前に電気ショックを実施することは、有益性がリスクを上回る可能性があると医療従事 者が評価できる状況では合理的であるかもしれないと考える(望ましい医療行為)。

<JRC の見解> 心停止後数分以内に電気ショックを行うと自己心拍が持続的に再開する可能性があり、一方電気ショックでエアロゾルが発生する可能性が非常に低いこ とを考えると、医療従事者は、エアロゾル発生のための PPE を着用する前に電気ショックを試みることのリスクとメリットを考慮することは合理的である かもしれないと考える。

<わが国への適応> 迅速な電気ショックが求められる状況において、医療従事者がエアロゾル発生に備えた PPE を着用する前に電気ショックを実施することは許容される。

JRC 日本蘇生協議会 「心停止傷病者から救助者への COVID-19 感染リスク」

COVID-19が疑われう状況では、蘇生はPPEの着用が原則ですが、除細動のための電気ショックは、PPEがなくてもやってもいいよ という考え方ですね。電気ショックのみではエアロゾルの可能性がとても低く、一方でVF/VTへの電気ショックの効果は高いから。という理由です。これも妥当ですね。その間に、別の人がPPEをきて、できるだけ早く胸骨圧迫などを行うという考えですね。

そういえば、以前、英国NHSの動画を紹介しましたね。

院内心停止への対応、胸骨圧迫は後(動画あり)

まとめ

5つのステートメントとJRC蘇生協議会の見解について少し詳しく解説しました。どうでしたか? いずれも妥当な見解かと感じます。JRC蘇生協議会のみなさん、GJです。

この見解をもとに、各地域の対応をどうするか、もう少し細かいことも定めた心肺停止への対応ガイドラインがあるとさらによいのですね。それに期待してしまいます。

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